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​名前

落としてしまいました。私の名前を。

いえ、その、今さっき落し物の用紙に書いた名前ではなくて。

だって、それは、今の私の名前でしょ。

​「い」と言っている間に「ま」が通りすぎてしまうような、一瞬の

刻一刻と通りすぎてゆく 今の

そうではなくて、3日前まで持っていた名前

結婚して苗字が変わったのではなく、

占いの姓名診断で名前を変えたのでも

芸名とかでもなく

3日前まで慎重に慎重に握りしめていた名前です。

名前と言うよりも、あの人の瞳、、、、?

人は、あんなにも一瞬のうちに名前を落としてしまうのですね

砂の山を崩さないように、丁寧に持っていた名前も

たった少しの言葉が漏れ出ただけで落っことして無くしてしまうのです。

何年も塞き止めていた、

月経の様に赤黒く

生々しく

ドロリとした感情が

止める手立てもなく

ドロリ ドロリ と 流れ出すのと一緒に

落としてしまったのです。

雨 降りしきる雨が少女の頬を濡らす

降っているには彼女の涙 それとも見つめる少女の

落とした名前は一人歩き

視線 注がれる視線が彼女に名前をつけゆく

​名前をつけるのは誰かの瞳 それとも彼女の

落とした名前は一人歩き

たくさんの瞳が 私に名前をつけました

私は 瞳の行くへを辿って 名前を探しました

でも、もう、あの名前は無いようです。

たくさんの名前が張り付いてゆくうちに

人がつけた もの なのか

私が思い込んでいるだけなのか

それすらもわからなくなりました

もう、あの名前は無いのでしょう。

それで いいのかも

誰かの瞳を私の希望峰にするのはやめました。

私を見つめる瞳がつけてゆく名前に寄り添うのは、、、

500号のキャンパスに付いた一点のシミ

それにも満たない ちっぽけな存在

それで良かったのだ

もう 誰かの瞳に怯えなくて良いのだ

たくさんの瞳がつける名前どおりにしなくても

生きている

​それだけで、、、、、、

冬の日_edited.jpg
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