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少女の前から沢山の果物やお菓子、飲も物が無くなる事はありませんでした

少女のお腹が満たされることが無かったからです。

ルビーの様に美しい石榴を食べても

幸福を包み込んでいるパンを食べても

待ち合わせをしている苺を食べても

満たされる事は無かったのです

まるで、ポッカリと穴が空いているかの様に

「お腹に別の人間が住んでいるんじゃないかい?」

「どうしてそんなに食べるんだい?」

街の人は口々に言いましたが、少女にだってわかりやしません。

その上、お腹は膨れるどころか、みるみるとやせ細っていったのです

まるで心がすり減って行くかのように、、、、、

「うまらない。いくら食べても。」

少女は目の前にある物を手当たり次第に口へ運びました。

泣くほど食べても、食べ物が喉元までせり上がっても、食べました。

​そして、何がほしいのか、何をしたいのか、誰に会いたいのかも、わからなくなって行きました、、、、、

「あぁ、私は、この穴は、一体どうしたいというのでしょう。

 足りないのです。何かが足りないのです。

​ だから私は 食べて 食べて 食べて 埋めて 、、、

 けれど 埋まらない

 この得体の知れない穴は、どこから生まれ、どこへ向かうのだろうか」

ショパンへ捧げた愛のショコラも

花の香を若葉に込めた桜餅も

雨雪が姿をかえたアイスクリームも

少女の穴を塞いではくれません。

 

 

だけれど、一つの花梨の実を手にした時、

思考のさざ波が思い出の海へと少女を引きずり込みました

「あぁ、、、なんだ

    こんなところに

        あったんだ   。

溢れんばかりの世界の色彩を

穏やかな朝焼けの美しさを

教えてくれたのは

たった一つの

沈みゆく世界で

この手を握ってくれたのは

たった一つの

この穴は私の淋しさ

母体から産道を越え、この世界に出た時に忘れてきた何か

いや、忘れてきたのではない。それをおいて行かねばこの世界にでることはできなかったのだ

でも、やはり取り戻したくて

満ちたりた あの時へ 穴一つないあの頃へ

あるかないか わからない ニライカナイ

喜びも苦しみも

チラチラと瞬く星の呼吸となんら変わりなく

今はただ、

なんでもない日のあの人が

愛おしくて

愛おしくて

​たまらないのです

私は生きている限り 

この穴を埋めるべく片割れを探すのでしょう

片割れを探すように人を愛するのでしょう

​この世にいる限り、、、、、、

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